2019年10月26日土曜日

1212年の少年十字軍を描いた「インノサン少年十字軍」古屋兎丸

ハーメルン伝説(1284年)が、当時の祭の興奮から起きた事故であり、そもそも祭や笛吹きや生活が中世においてどういった事だったのかを書いてるハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界/阿部謹也を読んでいたら、ハーメルン伝説の根拠の1つに1212年少年十字軍が紹介されていた。
そこで、副読本としてインノサン少年十字軍を見つけて読んだ。



  • エティエンヌは奇跡を見た前提の作品
    • エルサレムの位置を光の柱を見て認識してる。
    • ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界/阿部謹也でも書かれていたが、当時の地図は半径300km程度も怪しい内容。
    • 例えば、聖地エルサレムが真上(北)に描かれていたなど。
    • だから、当時の事実として方角を知らず南に向かいアフリカに奴隷として売られた
    • しかし、本作は、奇跡を見た前提なのに、なぜエルサレムに陸路ではなく海路を選んだのだろうか。
    • この地理の問題が、第1話の奇跡と齟齬が気になって集中できなかった。
    • しかし、この件はちゃんと最後に明かされていた。
    • 本作において、幾つかの偶然はあれど、エティエンヌの奇跡は無かった。
  • キリスト
    • 事実も本作も、キリスト教の断片による不幸とも言える。
    • この話は、当時から約1200年前の出来事の模倣だからこそ奇跡と言える。
    • だから、現代から2000年前と800年前の行動を現代人が再構築して実現したのなら、それは奇跡の再来と言える。
    • しかし、本作のように個人の描いた絵の集合に過ぎない場合、キリストとエティエンヌの行動が同じであるのは、差異の無い重複に過ぎない。
    • 例えば、ブレードランナー 2049のようにキリストの再来と思われた事が実は…という凡人/多数派がキリストの影響でキリストとは異なる奇跡/行動を起こす、という話ならわかる。
    • そういう意味で、幾らかの前提が既知で興味を持った読者向きではない。作者の信者や絵に釣られたとか漠然とした読者に向けた商品。
  • 舞台演劇
    • 本作は舞台演劇な演出が多くナレーションがある。
      その語彙が自分には合わなかった。
    • *神は残酷だ。試練というには残酷な旅路を続行させた
    • いやいや残酷が重複しとるがな。
    • ユダヤ人の起源並に無駄な文字が多くて、全3冊なのにひっかかる読み進まなかった。
    • また、基本的に美形しか存在しないので、内容の凄惨さが他人事にしか見えない。
  • オスの生理
  • ベルセルク
    • 本作を読んで、改めて思ったのは、具体的な名前や西暦などを知りたいなら、それぞれの本を読めば良いが、漫画としての娯楽性と描写による衝撃と抽象的な把握なら、ベルセルクのロストチルドレンまでを読めば良い。
    • 事実として凄惨なのはわかる。
    • しかし、本作は壹部が事実であるのに、空想であるベルセルクの蝕ほど読んでいてつらい事は無かった。
    • そこには、他国の出来事を自身の人生に反映させるのではなく、消費するだけの愉悦に終わってるように見えるから。
本作は非現実の王国での子孫。
自分はこれまで古屋兎丸に乗れなかった。
今回は彼の興味と自分の興味が合ったので、いい機会なので読んだ。
しかし、やはり彼とは合わないようだ。
サブカルとは主流(ポップ)への反発である筈なのに、結局はポップに乗って成り立たせてる着地が、自分には違和感がある。