2020年8月31日月曜日

肩をすくめるアトラス - 今読むにはあまりに幼い理想主義

肩をすくめるアトラス

聖書につぐアメリカ国民を作り出した本と聞いて読んだが、いやあ酷かった。

人間の本質は挑戦と成長になる。これには全く同意する。

共産主義(社会主義)を批判目的としているが、1957年当時は毛沢東の失敗を予言してる点でも凄い作品だったのだろうが、個人主義、自由主義、資本主義もまた癒着や独占など共産主義と同じ問題を抱えてるのを知る現代人には、主張があまりに幼い。

ケンリュウの結縄はこれの対比なのだろうか?

本作が礼賛する資本主義的な道徳が全く無効で現実的な悪行をやる事を示した結縄の方が、余程資本主義を捉えてる。

MMTに限らず、もはや金本位制が成り立ってない先進国に生きる我々には、金に価値だけじゃなく意味まで求めてることには苦笑。

また、福祉に言及し、有能なら人種性別などを問わないような言い方をしながら、主要人物の有能枠どころか脇役にすら身体障害者が存在せず、それらの具体的な能力発揮の困難さやコストや福祉など放置。

しかも、有能な善人は全員が若々しく美形で、努力をしない人間を批判しながら明らかに先天有能だけを礼賛している。

ディズニーと同じ病気。差別はやめようと言って属性を逆転させただけで差別で復讐してるという。

鉄道と煙草が重要な存在でありながら、それは資本主義を礼賛するだけで、そもそも横断鉄道は苦力やインディアンを犠牲にした結果だし、煙草もまた中南米とインディアンから搾取した結果であるという歴史を全く無視して、アメリカは1869年以降の姿を最初から持って生まれたような国として描写してるのには吐き気がした。

フランシスコやラグネルの生き様は過剰とはいえ理想像としてはわかる。ブルースウェイン過ぎて笑ってしまうが。

そこまで酷い作品ではない。しかし、550mm,1263p,1kg という物体と時間の負担を考えると、温故知新は無く、ただある時代の過剰さだけが浮き彫りになる普遍性は無い点で失望しか無かった。

リアーデンとダグニーのやりとりなんて重複してるんだから1回で良い。そこに無駄な尺を取らず、前述の資本主義の土台作りの罪悪や有能だと証明する機会が果たして平等なのかなど、そういう問題を書くべきであった。

扱ってる題材の量や深刻さに反して、ポジショントークの主張と描写の矛盾が酷すぎて、特に後半はもう真剣に読んでいられなかった。

キリスト教を批判しながら、本作の重要人物はイエスとやってる事が同じだと無自覚な愚行。

もっと当時から未来を見据えた作品かと期待してたのが、ある時代のプロパガンダに過ぎなかった。