2020年4月28日火曜日

伊藤悠「オオカミライズ」 #2 - 素晴らしいSF設定と冷徹で即断の行動力。ただし人間関係は相変わらず少女漫画BL。

好評+

  • 撒き餌じゃなく持続してる、ロシアと中国に分断された近未来の日本という設定
  • 命や状況に対する冷徹で即決な登場人物
    • ただし、その反比例で、いざ会話が始まると誰も彼も「男は」女々しくすぐ泣く。
    • 無頓着な男に周囲が見いだす能動BLじゃなく、明らかに趣味や商品としての自覚的な受動BL。
  • 過去作品にも共通するが、場所や状況を登場人物並に大事にしてる。
    • ただし、肯定と矛盾するが、背景の描写が甘い。
    • 写真をフィルタ加工しただけで登場人物と画質が全く合わず、出来の悪いアイコラを見てる気分。
    • また、2頁まるまる背景が真っ白というのもあり、文字通り白けてしまう。
  • 女の自立
    • これは女の作家だからこそ。
    • 女には姫と母以外の人生もある。
    • 天を仰ぎ短剣で喉を…というのがヒロインの自害テンプレだが、長刀で頸動脈をズバっとは勢いありすぎて笑った。
  • シュトヘルにも共通するが戦闘が大味で繊細
    • 移動はドラゴンボール並に大味なのに、急所を銃弾で攻めるのを陽動に、足を関節技で攻めるという、人体構造を前提とした戦術。
    • シュトヘルでも、武器同士の戦闘なのにキス並の接近が容易な癖して、振り下ろした武器を躱し様に腕の関節を攻めるという描写が見られた。
    • 本作#1では、敵の膝を踏み台にして逆関節と移動を両立した膝蹴りを見せてる。
  • ニホンオオカミも比喩に含むだろうとは誰もが考えるが、実際にSF設定の1部にニホンオオカミが採用されてた。
    • #1の設定は、北朝鮮のミサイルが契機だったが、隕石による突然変異であると明かされた。
    • 稀少ゆえに集団として弱く、稀少ゆえに混沌の中で突出する可能性。
    • 日本が武力独立できない代償に、非戦闘的な価値観(漫画など)で世界と対峙する強さと弱さ。
  • ビースターズにも言えるが、こういった男の暴力の肯定は、常に強姦の代償を含んでいるのが現実であり、その点で主題には全く同意するが、作家の覚悟に反して絵空事にしか見えない。
    • ただし、彼女達の怒りには大いに賛同する。
    • 本作と合わせてジョジョリオン #23を購入したが、その中の小冊子広告に君のことが大大大大大好きな100人の彼女という吐き気がする題名の萌え売女が1面だった。
    • こういった類が、ある商品を買った時に出版社の代表という顔をしてるのを目の当たりにすると、男の中で無刀陣を噛ましたくなるのもわかる。
    • もっとも、これらが同じ出版社で併存してるというのが八百万神の素晴らしさでもある。
    • 自分は割と萌えには否定的、というよりも分野の少数派(Occasionally:4割程度)なら文句はないが、最近の攻殻機動隊の童顔問題など、分野の象徴にされるとオラオラしたくなる女や古典主義には同意する。

総評

伊藤悠の良さも悪さも、相変わらず両方とも出ている。
個人的に合わない細かい点も、彼女の覚悟と情熱の核を目の当たりにすれば、やはり読み続けてしまう。
シュトヘルの終盤が少女漫画すぎたり、そもそも現代の2人恋愛いらんかったとかと同じく。
ただし、絵に関しては、年齢か予定かコロナか原因は不明だが、随分と手抜き(間引き)が目立つ。
萌えが人にしか焦点が合っていない商品なのに対して、こういった[作品/作家]は目指すものが違う筈だ。
その割には、萌えと同じ問題を抱えて、それが目立つのが気になる。
原因の設定を隕石にする事で、全部を説明せずに終わらせる事も出来るし、それで良いと思う。
ただし、最近ありがちな、感傷のためのSF設定はやめてほしい。
テッドチャンやノーランのように、人類の存在とは無関係にあり続ける環境や状況、その断片に過ぎないと自覚しながら中心として描かれる感傷。
シュトヘルはそこには行かず少女漫画になってしまったが、荒木飛呂彦や岩明均や萩尾望都の場所に行ける作家だと思うので、今後の展開を楽しみにしている。