2021年9月27日月曜日

テネットのタッキングとウェアリングの意味

自分は海皇紀という漫画の影響で帆船を好きになり、アメリカスカップの動画を見るようになったり、帆船用語を覚えたり、帆船的な意味で大航海時代やカリブの海賊などに興味を持ってアサシンクリード4を夢中で遊んだ。

さて、そこでクリストファーノーランテネットである。

帆船とは全く別件で、フォロウィング以前の自主短編も見ている程度には彼のファンであり、その彼の作品でアメリカスカップで走るようなレース用のヨットが走る場面があって興奮した。

その中で、タッキングとウェアリングという用語が出てくる。


タッキングとウェアリング

よく誤解されるが、帆船は風を後ろからうけて風下に走るだけではなく、ある程度の角度まで風上に向かって走れる。

むしろ最近のレースヨットは風上に走ったほうが速い場合すらある。

そこで、風をうける角度を右前から左前(または左前から右前)に変更するための舵と帆の変更動作をタッキング(上手回し)と言い、風をうける角度を右後から左後(または左後から右後)に変更する動作をウェアリング(下手回し)と言う。

難易度はタッキングのほうが高い。何故なら、風上から風上に舵を切るので、失敗すると減速したり停止してしまう。

ウェアリングは、失敗しても風下から風下に走っているので、風に押され続けてるという点で停止はしない。

本題

そこで、テネットにおけるタッキングとウェアリングについて疑問に思った箇所がある。

主役が落水した人を助けるために、ヒロインにウェアリングを指示する。しかし、ヒロインは「無理」だと答える。

落水した人物はヒロインが突き落としたので、単純に「だが断る」という意思表示だと理解できる。だが、主役は「大丈夫だやれる」と言った難易度や実行力に言及して、実際にウェアリングを実行して落水者を助ける。

先述の通り、ウェアリングはタッキングより簡単である。そして、この場面の前でタッキングを平然とやってる描写がある。

もしヒロインが助けたくないという意思表示なら主役の続くセリフや行動は繋がらないし、もしヒロインが自分には難易度が高いという意味の返答なら、それはタッキングであるべきでウェアリングではありえない。

自分は当時映画館でこれを見てから、この意味についてずっと考えてた。

結論

最近になって、この矛盾に関して、映画の意味的にすっきりする事を考えついた。

タッキングとは風上から風上に向かって走る方法。つまり逆行である。

ウェアリングは風下から風下に向かって走る方法。つまり順行、どころか流されるままである。

本作は時間の矢を存分に扱った作品だが、ヒロインの人生観が、流されるままに絶望して自由(逆行)を求める立場だ。

つまり、作品全体の題材である逆行と、彼女の立場と、大小両方の意味で順風に従わない、逆らう、というのが作品の核の補強になっていたのだな、という妄想に近い自説。

ノーランと帆船の両方好きとして、この2つを合わせた論や感想が全く見られなかったのが寂しく、思いついた事を書いた。

ノーランヴァリエーションという彼の作品と言動をまとめた本では、最新の帆船(高速ヨット)は水面から浮いて走る事に言及されてるなど、彼の扱う舞台装置の興味の程度や範囲も知られる。

なお、最近の帆船事情と言えば、主に運送のエネルギー問題に対してあえて帆船にするという試みもある。