2020年8月31日月曜日

ダーク・ジェントリー 全体論的探偵事務所 - 超能力が自身の幸福に何も寄与しない悲哀

ダーク・ジェントリー 全体論的探偵事務所

もともと銀河ヒッチハイク・ガイドの評判で興味を持ったが作者の別作でコレも良いと聞いて。

設定や蘊蓄が作品の根幹とは繋がっていない、あくまで代替がきく装飾。

しかし、超能力や超常現象が日常的ならどうなるか。基本的にそういった超常現象が自己陶酔には繋がらない価値観は素晴らしい。

軽い叙述トリックだが、2人称で描かれる主役の明らかな超能力を、特権維持と自衛のために隠しているのではなく、実は主役自身が理解していなからこそ本気で否定していて、ヤレヤレではなく核心として悲哀を含んでいる。

無意識の行動の異質さを、文字だけで書かれるとここまで混乱するものなのかと面白かった。

無意識の行動を無自覚に継続してる違和感は、京極堂に近い。

明らかに異質な行動や状況が、呼吸や歩くほどに自然な形で発生した時の読者にとっての違和感や混乱は、同じく今年に読んだ明石散人の鳥玄坊と並ぶ。

もはや超能力が常識となり子供を喜ばせる要素でもなく鉛筆や箸や算数と変わらない感覚で、超能力が幸福や不幸を決するものでもなく無限の手段や状態の1つに過ぎないという価値観は、ジョジョリオンの荒木飛呂彦に近い。

自分はあくまで小説を求めてたので、本作がドラマになってるとは知らなかったが、スクショやキービジュアルで見る気が失せた。

そもそもダークは見た目が悪く、超能力で立場を得たと思ったら、その超能力すらあるいは不幸を招くかも知れない、という八方塞がりで自立してる、内面優位の人間であり、しかも、周囲が基本的に超常と無縁で日常的な幸せを得てる幸福美形だからこそ、対比としてダークが必要なのだという展開なのに、日本のアニメで登場人物が全員美形という差別をやってるようで実に不愉快。