2020年8月31日月曜日

息吹 テッドチャン - 読んだ感想

息吹 テッドチャン

あなたの人生の物語から17年で2冊目の短編集。

前表題作ほどの衝撃は無い。少なくとも、神を夢見た人間がいざそこに踏み入れた時に幸せでいられるのかという、派手さと核心の両立という感じでは無い。

しかし、それだけに今回は現実的SFというか、より身につまされる話ばかりだった。

しかも、今回は明確に非人類を描きながら、具体的に人類とは異なりながら抽象的に同じ問題を抱え、その共通項をもって人類を肯定するのではなく、共通するのはどんな科学も環境も境遇も、ある宇宙的事実の前には無力であるという事。

前作は必ずしも収録作の全てが人生を穿つものではなかった。

しかし、今回は作品の幅が好みを問わない、どれを好きだったと強く言うほどに思い入れがないのに、全ての話について語れるほど、そして短くとも他の作品や事実を契機に引用や連想してしまうほどに強い作品だった。

テッドチャンで何が好きかと聞かれたら、間違いなく「あなたの人生の物語」だが、SFもテッドチャンも小説も無関係に、何か良い本は無いかと聞かれたら、間違いなく本書を挙げる。

翻訳も静かで知的で素晴らしかった。

今年、柳家小ゑんの落語鉄の男を見る機会があった。その後に思ったのは、テッドチャン的な設定やSF用語と仮想実験で落語を作れないだろうか?

テッチャンは会話が少ないので落語に不向きだが、仮にAとBそれぞれ異星人で前提が違う叙述トリックのような事が出来ないか。

ちょくちょく考えるが具体的な発想に至らず、今のところ思いつかない。