2019年10月3日木曜日

ホドロフスキーのDUNE - すげえ面白そうで間違いなく見たいけど、そら没になって当然だわ

題名表示の時に背景に描かれた宇宙船がサイケ過ぎて笑った。
設定や絵コンテのためにジャンジローメビウスを起用。
これは良い。
しかし、ダンオバノン,ダリ,ギーガー,オーソンウェルズ,ピンクフロイド,ミックジャガー,マグマなどなど、出演者にせよスタッフにせよ芋づる式に増えていき、特に酷いのはダリだが、恋人を出演者にしろ/燃えるキリンを用意しろ/歴史に残る出演者最高額にしろ…
これらは極端にせよ、1人1人の条件の堆積で予算が膨らんで1500万ドル。
当時むちゃくちゃ豪華に見えるスターウォーズすら1100万ドル。
そら没にされるわ。



本作は90分あり、70分まで関係者の行動や証言だが、それが全て撮影前段階の話なのだから笑うしかない。
たしかに見たいと思うような内容である。
特に個人的にはホドロフスキというよりも、関係者むけ絵コンテや資料集を見るにメビウスの仕事として見たかった。
しかし、あまりにサイケでゴシック過剰。
本来はSAWCubeのようなインディ的な指向を世界市場(当時の映画はまだアメリカ国内だけで黒字になるような時代だったが)に売ろうと考えるのは無茶だ。


ただし、見てる時は考えつかなかったが、今これを書きながら思いついたのは、こういう思想ありきで売れない商品はクラウドファウンディングをやれば良いのではないか。
関係者は出資者を批判する。
その気持ちはわかるが、商売こそを考えて利益をあげてる人種に依存しながら、思い通りにならないからと非難するのは筋違いだ。
不満があるなら、自身で金を集めれば良い。


ホドロフスキ自身は実に陽気な老人で話を聞いてると凄く愉快だ。
しかし、今でも常識である90分尺にしろという要求に対してそんなものでおさまるはずがない自分は12時間いや20時間の映画を作ると豪語したと喜々として発言している。
そんな態度で金をだして貰えるはずがねえだろとw
愉快な人だが実に大げさな物言いなので、何がどこまで事実か我々にはわからない。
それにしても、実現するためなら腕を切り落とされても良いとか言うくらいなら、目的のために嘘ついて出資者に媚びれば良かったのだ。


個人的にRachel Weiszが大好きという理由だけでThe Fountain(予算3500万ドル)を見て、あまりに指向が非商業のあれな感じで笑った事がある。
こういう類を面白いと思う人間もいるし多様性は分野には必要だし、分野の1つとして楽しめるのは事実。
それでも、仮にDuneが実現してもThe Fountainのように絶対に売れるわけがない。
本作を見て、完成品を見たいと思った自分すら、それでも絶対に商業的には失敗したと確信するくらいに、見せられる資料やホドロフスキの言動は、同意/反意を問わず現実離れしてるように見えた。


しかし、実現性はともかく、ホドロフスキ自身の言動は明快で、同意するかはともかく、理解はできる。
原作レイプという言葉がある。
原作と同じ事をしても意味がない。
結婚するとき純白のドレスでも彼女と子供を持つには、それをはぎとってセックスするしかない。
自分はそれをやったのだ、愛をもって。
…と彼は言う。


ある種の批判の正当性や、自身の行動の代償や問題を、彼は自覚している。
そして、見せられる資料や証言から、それが例えば押井守のような原作を無視するのが目的の手段/自己陶酔ではない。
そういう意味で、極めて誠実な人である。


個人的に生涯の作品の1つに、カウボーイビバップがある。
コレはオタク趣味を実現した結果、世界的に売れた作品ではあるが、ビバップ関係者がDuneの資料とかを入手出来てたかどうかは知らない。
しかし、明らかにホドロフスキの影響を望んで受けている。
当事者ではないがフライング・ロータスが愛する日本カルチャーを徹底解説のようにホドロフスキとビバップ(渡辺信一郎)を同列に語る記事もあるくらいだ。
そういう意味では、ホドロフスキが言った通り、Duneは実現しなかったが、Duneの魂を継いだ作品は幾らでもある。
そして、カウボーイビバップは大成功したという点で幸運である。
カウボーイビバップ自体が、宇宙船の玩具むけにSF作るなら好きにやって良いという事情で作られて、SFに対して極めて真面目でありながら明らかにSF様式を予想する出資者や消費者を裏切ってやろうとする天の邪鬼な情熱の結果なのだが、それが成功したのは、本当に幸運である。


ホドロフスキ自身が言っていたが、撮影に応じて発言してる段階で86歳だが、実に情熱と行動力にあふれる爺だ。
映画ではないが、2019年9月26日に木村一基が46歳にして最年長タイトル獲得を実現した。
単純に彼らの行動、人生の核心を学ぶという点だけでも、今回の映画は素晴らしいものであった。
ホドロフスキに限ればDuneという企画は終わり敗北/失敗した。
しかし、それをもとにアンカルが出来た。
実は、ずっと興味がありつつも金額や流通の問題で今でも読めていない作品の1つなので、今回のコレを見て、やはり読まなければならないと思った。
国立国会図書館には確実にあるので、そう遠くない日に読みにいきたいと考えている。


そもそも原作やリンチ版の映画は超有名。
しかし、自分は原作は未読。
映画も断片では既知だったが、総尺を把握するためにちゃんと見たのは今年になって初めて。
結局は作られずに終わったホドロフスキにせよ、完成してわけわからん事になってしまったリンチ版にせよ、既知だが見ずに終わっていたのを見る気になったのは、ドゥニヴィルヌーヴがDuneをやるから。
ホドロフスキが言うように、自身が原作をもとに原作と違う事をやろうとしたように、誰かが自分達の資料からまた同じで違う作品をやれば良い。
ドゥニのDuneがそれなのかはわからない。
しかし、彼は分野の歴史や偉人に真面目で引用をためらわず、それでいて現代性と個性も忘れない。
それを大予算で実現できる立場にもある。
その点でも、やはり楽しみである。