2019年9月3日火曜日

戦争を始めるのは誰か/渡辺惣樹 - みんな違ってみんな悪い

本書はウィンストン・チャーチルフランクリン・ルーズベルト(FDR)の2人が第2次世界大戦の原因と主張する。
彼ら2人がいなくても、ヨーロッパ同士とソ連、中国と日本とソ連、それぞれ局所で戦争は避けられなかったが、世界大戦にはならなかったであろうと。
そもそも、アメリカにとって日本が、ヨーロッパにとってドイツがソ連(共産主義)の防波堤であった。
ナチスドイツのホロコーストはヒトラーを絶対悪とする動機には充分だが、それは第2次世界大戦結果であり原因ではない
論旨はわかる。
しかし、帯にも2人の名前を挙げているが、本書を読む限り多少それに偽りがある。
全て読み終えると、2人以外の要素も明確に原因と言及されているからだ。
  • ヴェルサイユ条約の理不尽
  • 小国(ポーランド)の傲慢
  • ヒトラー支配がヨーロッパ全域に及ぶと考えたチェンバレンの誤解
    • ポーランドの次はルーマニアだと誤報を信じた
以上の3点に加えて、ヒトラーと日本を追い込んだのが2人であると。
  • チャーチルに関しては明快。
    • 彼には、借金と野心とユダヤ知人があった。
  • FDRに関しては、動機や行動の詳細が不明。
    • 当時ソ連スパイの影響もあろうが、そもそも彼自身が共産主義的な政府による支配派だった。
      • フーバーの支出批判をした上で、自身も支出政策を選択。
    • ニューディールの失敗(衰退)から戦争景気を選択した一般論からの逸脱あるいは超過した要素が無い。
      • 黄色より白人、小国より大国、など人種差別的な判断はあるが、そもそも当時は各国ナショナリズム過剰だった。
    • 千島列島や満州など、歴史と自衛のいずれにも無頓着であった。
当然ながら、2人(2箇国)で全てを断定できる程に事は単純ではなく、それは作者も自覚している
実際に、彼ら2人以外の事に多くの頁が割かれている
  • ドイツに対するフランスの自衛と恨み
  • チェコスロバキア多民族の自己崩壊
  • イギリス支援を根拠に増長したポーランド
  • ヨーロッパ経済のためにドイツ賠償を支援したアメリカ
  • アメリカ支援で増長するヒトラーとヴェルサイユ条約を原因とする国民支持
  • ヒトラーはイギリス対立を避けるために基本的に武力衝突を避けていた。
    • ただし、イギリスと対立せずになし崩しで領土を認めさせるための虚偽は幾らでもあった。
本書は300頁を多少超えている。
理数系を噛み砕いた重力とは何かでも300未満。
これでもかと要約して一般的な新書の厚みと思える音楽の基礎が200頁。
つまり、幾分断定できない要素を自覚しながら、入り口として超巨大な看板を立てた格好。

第1次世界大戦社会的な損害経済的な利益、各国が天秤から選択した結果、後者が勝った。
そして、イギリスはポーランドのため、アメリカは中国のために動いたが、どちらも共産主義国となった。

当時の一般人には判断しようがない例として以下がある。
1915年/ドイツU20がイギリスの客船ルシタニアを撃沈。
同船にはアメリカ人も乗船していた。
英米はドイツを批判。
しかし、当時ドイツは交戦国(イギリス)の船にアメリカ人が乗らないように新聞などで警告。
そして、2008年に同船とアメリカ/レミントン銃弾400万を発見。

ケインズやシドニーフェイのヴェルサイユ批判からアメリカ人は学んだとあるが、戦争と利益と損害の結果がでて、いずれかに極端に振れたに過ぎない。
なぜなら、その後に共産主義に加担して第2次世界大戦を起こして挙げ句に冷戦である。

ただし、日本も含めて、それぞれ常に賛否が両立するように、アメリカやイギリスにおいても参戦反対はあった。

イギリスが参戦しない理由

  • イギリス国民はチェコスロバキア領土を理由に参戦しない
  • ヒトラーの領土要求は正当
  • チェンバレンはソ連(共産主義)の防波堤にドイツ武力が必要と考えた
  • イギリス陸軍は戦闘準備が出来ていなかった
  • ヒトラーはドイツとオーストリア経済に貢献し、当時の評価は絶対悪ではなかった。1938年のタイム誌は彼をMan of The Yeraに選んだ。
  • チェンバレンは先の大戦、第1次世界大戦でこりていた。
しかし、結果的に参戦が勝った。
結果に対する逆算としての理解は、本書は非常にわかりやすい。
だが、FDRに関してはヴェノナなどを読んで彼の関係者の詳細を認識しないと理解できないのだろう。