2019年8月27日火曜日

オオカミライズ - 伊藤悠 - 作者の信頼を含み完結を待たずに約束された名作

皇国の守護者シュトヘルで知られる伊藤悠の最新作オオカミライズ
キャサリン・ヘプバーン自伝など読みたい本のついでに購入したのだが、とんでもない作品だった。

舞台は東京都23区を除外した周辺から富山県までの一帯。
北朝鮮のミサイルが日本に着弾。
ロシアと中国が自衛を名目に日本を武力支配、南北に分断。
その中で生きる、中国の実験で獣人化した日本人。
Beastarsズートピアに代表される獣人モノは、特定の人種や性別を攻撃せずに愛玩性を利用して差別問題を描くものだが、本作は日本/ロシア/中国のような国が明記、人種問題を扱った上で獣人がある。

伊藤悠はもしかして自身か身内が中国人なのだろうか?
皇国の守護者は日本人が日本人のために描いた作品で原作がある。
それが打ち切りで終わったあと、オリジナルの新作はモンゴルと中国を舞台にしたシュトヘル
体裁は日本人が主役だが、描きたい題材やもろもろは異国の事。
そして、今回は日本が舞台だが大陸系の過剰で様々な流入による問題。
かつての少女漫画がフランスを中心にしていたように、彼女にとってアジア大陸が興味の対象なのだろうか。

明らかに火の鳥/太陽編(手塚治虫)から影響を受けており、再びナショナリズムが過剰になっている現代では第2次世界大戦前後を連想するが、日本が抱える根本的な問題として、歴史的な題材はもっと遡っているように見える。
もっとも、火の鳥/太陽編(手塚治虫)も第2次世界大戦後に彼の経験と歴史から描かれたものなので、やはり同根である。

人類と異質だった寄生獣の寄生生物が、もし日本人だったらどうなるか。
シン・ゴジラのように、ゴジラは日本人の災害と戦争を反映した魂という偶像ではなく、自意識をもって日本で異質な存在だったらどうなってしまうのか。
*路線は異なるが乙女怪獣キャラメリゼがその一部を担っている。

異国から影響を受けて発展しながら、大陸系と違い異国と完全同化しにくい歪んだ国とも言える日本を擬人化している。
周辺国との関係や問題を個人的な趣味と事情に落とし込んだパイドパイパー(浅田寅ヲ)とも似ている。

表紙は昭(アキラ/ジャオ)を中心とした多国籍な対日本人戦闘部隊マムト/タシ/エミ。
じゃあこれが主役かと思ったら違う。
帯には、狼ケン/犬アキラ/人イサクの3人が主役とある。
イサクとくればユダヤであり、進撃の巨人もユダヤの何かを日本が継承していたらという話だし、やはり第2次世界大戦の一部が世界的に再来してる現代において、そして敗北しながら増長するために、日本人はユダヤに通じる何かに肯定的なのだろうか。

これら人種や国交など現実的な問題をまとめてる凄さもあるが、単純に誇張や設定の漫画的な丁寧さも光る。
  • 本来、籠城で不利な倭狼が、強靭だが不死身でない以上は物量に負ける容易な結果予想を、戦闘中に敵が感染して増殖するという設定で極端な不利を招かないよう、物語と両立している。
  • 頭部が無い遺体に献花の束を代替。
    • それを文化や情緒の演出で強調せずに、焦点があわない背景にて描写されている細やかさ。
  • 子供が成人に格闘で勝つ少年漫画的な演出があるが、相手の踏み込みにあわせて膝を踏み台にカウンタの膝蹴りという、誇張がありながらも人体に則した描写。
  • 南北が中露に分割されたが、中国側の日本を守る名目でロシアを悪とするプロパガンダのアニメ演出があまりによく出来ていて笑った。
  • いや違う全然違う本当に違う完全に違う
    • 深刻な本筋描写と温度差が無く描かれるギャグ
中国の強制で犬から狼となった日本。
しかし、犬故に大国に包囲され、狼故に大国と衝突する。
狼と犬の意味は作品で明文化されている。
狼は犬よりも強い。しかし、犬より強くてもニホンオオカミは絶滅した。
大陸的な戦闘にあけくれた結果の大国が抱える問題。
武力に劣る半島や島国が卑屈や愛想で乗り切る無様。
The Book of Lifeレゴムービーが提示する、個性は特化ではなく全てを踏まえた上での選択であるという厳しくも正しい主張。
人種、戦争、歴史、風刺、戦闘描写、人間関係、人生、萌え。
あらゆる要素が、この作品には詰まっている。
ジョジョリオンヒストリエゴールデンゴールドに並ぶ、作者の信頼を含み、完結を待たずに約束された名作のように思える。
自分が現在買い続ける漫画の4作目に入った。