鑑定士と顔のない依頼人 [Blu-ray](The Best Offer)。
頭30分は最高。人生に食い込む名作かと思った。しかし、中盤からだれて、結局は、リア充イケメンが童貞をちょろまかす、ひでえ映画だった。
最初の鑑定士の声だけの演出、マイケル・ケインかと思った。
構図がいちいちお洒落。クリストファー・ノーランに近いものを感じた。冒頭の誕生日ケーキ。後ろ姿の構図が、明らかに誰かもう1人を想定した空間をあけた構図で、冒頭からいきなり孤独感を出していて、その時点では意図したものかわからなかったが良いカットだった。どんな場面でも、背景と人物を等しく扱っているというか、人物よりも背景により何かを感じさせようというカットが多かったように思う。ノーラン的だと感じた理由に、背景が広い。出てくる部屋がいちいち広い。体感しにくい広さというか、何でもない場面でも横に広いか奥行きが広いか、広角と望遠のどちらでも無意識に過剰に広く感じる空間ばかり。とにかく、室内だろうが屋外だろうが等しく広く感じるような映像が多かった。鑑定士の観察眼を無意識に感じられる意図だろうか?
クレアに服を渡して、それを着てみせる場面。広角で少しゆがめて程よく広く距離がある感じロングショット。あそこ良かった。シザーハンズを思い出した。
クレアが化粧は久しぶりと言っていたが、いやいや、おまえ顔の初披露でうっすらばっちり武装してたじゃんw あれを、映画の事情とするか、作中の伏線と見るか、それぞれだろうが。鑑定士が引退前に電話してたクレアって、作品では声だけだがイケメンとセックスしながら電話してるよな。声のぶれかたというか、未収録だけどイケメンとクレアのセックスも撮影してたんじゃないか?
最初の競売場面が最高。動きまわらずにきびきび動く感じ。首が疲れるとか、咳をひと声として確認する冗談と、それに笑う参加者の本当にこういう場で笑ってる感じとか雰囲気がすげえ出てる。
クレアの病気がとんとん拍子に改善されるの、恋愛ものご都合主義なのか、どんでん返しのための処理なのか、いずれにしても2人の関係が明らかになった時点で幾らか先が読めるのでだれる。
途中から、恋愛を優先しロマンチックだが病気を軽んじる恋愛小説家か全て仕組まれていたマッチスティック・メンかどっちだろうかと思いながら見てた。見る前の気構えでだいぶ印象が変わる。恋愛小説家を期待したほうが、衝撃を受けて楽しめるんじゃないか。
クレアを外に出したいって相談した次のカットで夜雨の中チンピラに教われて、それを見たクレアが外に出るって、都合良すぎて鑑定士の作戦かと思った。
幾らか合成背景があってがっかり。裏切りのサーカスとか何でもない場面の背景が合成だとなえる。
奇抜な天才が恋愛をして平凡な幸福を見出す、という作品に反吐が出る。それは、凡人の傲慢。この作品は、そもそも原作ありのどんでん返しこそが肝なのでしょうがないが、天才の感覚を凡人に垣間見せる作品かと思って、だから最初の30分はたまらなかったのだけど、作品自体が凡人にすりよってがっかり。そういう意味じゃ、恋愛を知って乱れてるように見える、最初の天才っぷりがしっかり感じられるから落差もまた説得力があって、描写そのものは凄くしっかりしたものなのだけど。
ソーシャル・ネットワークもそこが気に食わない。天才は、その能力だけで孤独で、簡単に孤立する。映画は凡人に向けてるからしょうがないけど、天才もあなたたちと同じく悩み弱いのですよ、じゃなくて「てめえら凡人が天才の邪魔すんじゃねえよ」くらい鋭くて良いと思う、というかそうじゃなきゃ天才を描く意味なんて無いと思う。喜嶋先生の静かな世界はそこが良かった。天才になりえた凡人と、天才のまま生き続ける天才の対比。
チェコのプラハがちょっとした鍵になっていてMonsterかよ、と突っ込んでしまった。しわはスペインだけど、老人のあわれな末路があっちのつぼなのだろうか?
スペインやイタリアのような暑い国において、最後の不幸というか孤立というか、そういうの、陰気な日本人がうじうじ悩んで見せたあとに能天気なハッピーエンドが受けるみたいなもんだろうか。
クレア役のSylvia Hoeksが良い。
情緒ものなのに、風呂で普通に乳首が見えたり、最後の回想で無駄にエロい騎乗位や乳首を吸われたり、映画のために乳首も辞さないが、脱ぐのが売りじゃないのが良い。
それにしても、最後の回想でセックス場面があったの笑った。別に作品の乗りからしてそうじゃない恋愛場面で良かったのに、すげえしっかりセックスしてるのに笑うしかなかった。
鑑定士の隠し部屋にどうやって入ったんだ? 最初の入室は目隠しで、部屋の存在を知っても部屋の場所や入り方は知らない筈なのだが。いちおう場面が無くても脳内補完が可能な情報ではあるが。イケメンの万能さを最初に見せてるから、場所さえわかればあとはどうとでもなる、ということなのだろうが。
音楽は良かった。最初にヴァイオリンでちゃきちゃき目立つ感じだったけど、合間で埋める音楽は、中域和音の白玉だけで、動かずひっかけず、静かに何となく音楽無しとは違う感じだけですませてる。音楽以外にも、靴、扉の開閉、部屋の反響など、全体的に効果音にも気が配られている。音楽自体がそれほど攻めないのに、それでも音楽もっと少なくて良いと思ったくらい、全体的な音の扱いが繊細でどっしりしている。
最後の機械人形、最初に見た時は何も思わなかったが、鑑定士が当初執着していた物を、イケメンがちゃんと代償として置いていったのね。ただし、全部仕組まれていたわけで、鑑定士の喪失感とは別に、機械人形自体が本物なのかという疑問も残る。ヒューゴの不思議な発明よりは機械人形に意味があって良かった。
贋作の中に本物があるくだり、あれを繰り返しすぎて落ちが簡単に読めるのどうにかならなかったのか。映像の鋭さに対して鑑定士が段々と鈍く、最初の繊細に反して中盤以降は段取り処理なのがどうにも残念。全編通して構図や映像は素晴らしく、所所の映像と情緒の見せ場が合致しているのも最高。しかし、構成とか要素は尻窄み。そんな感じ。