良かった点
- 設定の既知を逆手にとった演出。トーマス,マーサ,ブルースと思わせて別の家族など。
- 本来突っ込みどころのコスプレに対して、周囲が変人扱いして現実感を担保している。
- 銃も効かないスーツにする事によって、戦闘の制約を取っ払いつつ、強いのは戦闘だけで対照的に精神的な問題を浮き彫りにしている。
- アクション映画というより、フィルムノワールやハードボイルド小説のような展開。アメコミの段階的な展開をそのまま映画にしている。3つ数えろ、ロングハロウィーン、ウォッチメンの原作を想起した。
- 地味故に説得力のある格闘。
- ペンギンの異名を、足を縛られた情けない挙動で回収。Ally Mcbealでヤリチン男に復讐するのと同じ方法。
- 登場人物それぞれが2面性。
- 脅したフリしてバットマンとひそひそ話するゴードンの演技。
悪かった点
- 社会的底辺の鬱憤と正義感。それはジョーカー1本で充分。
- テーマ曲が見せ場のアクション場面に合わない
- キスシーン2箇所もいらない。特に夕日のは早すぎる。お互いの関係性が明らかになった時にセリーナが救出する場面だけで良かった。
- 寄った画面が多い。特にバットモービルのカーチェイスで俯瞰のカットが1つもなく、前後左右の関係がわかりづらく、映像的にも疲れやすい。
- 中盤以降は全く意表をつく描写も発想もなく、浅い説教。
- ブルースとバットマンが切り替わる場面が無い。カットが変わると着替え終わってるのに違和感がある。滑空して着地失敗してボロボロの次のカットで、もうスーツは新品同然になってるなど。
- バットマンらしい方法の救助が無い。最後はキリスト(モーセ)的な名場面を装っているが、自分は戦闘後にバットマンらしいスタイリッシュクールなガジェット,ヴィークル洪水救助があるものだと思ってたら、何も無かった。
- アヴェマリアの謎。ブルースにとってマーサ、母親は設定的にあまり重要ではない。ブルースとトーマス、セリーナとマリアの対比はわかるが、アヴェマリアをテーマ曲にすると、それはブルースの話ではない。
- セリーナが純朴。これはブルースを優先した結果でしょうがないのもわかるが、単なる萌えキャラで、裏が何も無い。
- 本作に限らないが、例えばバットマンとセリーナが夕日の屋上で話す場面など、明らかに登場人物と背景の露出が合っていなくて合成丸出しで萎える。
総評として、序中盤は前提を逆手にとった演出は、単純に洗練された映像と、どこまで鋭くやれるか、という挑戦が素晴らしかったが、後半は典型的な道徳をふりかざすだけで、2転3転する展開の割に、見せ場は1転だけで終わって尻すぼみ。基本的には素晴らしいがダークナイトやアンダーザレッドフードなど、当時の衝撃と比較した場合の相対的な感動は低く、アーカムシティの後のアーカムナイトのがっかりに近い。アーカムナイトもThe BATMANも決して駄作ではないが、純粋に旧作を超越した名作ではなく、旧作に劣る部分も目についてしまう、という意味でのがっかり。